一番印象に残った町、酒田
函館を出港した船は、一晩かけて日本海を南へ進んだ。
朝、目を覚ますと船はもう酒田港に着いていた。
今回のクルーズでは函館や金沢、済州島など有名な寄港地もあったのだが、振り返ってみると一番印象に残ったのはこの酒田だった。
なぜなのか、自分でもうまく説明できない。
でも今こうして思い返してみると、その理由が少しわかる気がする。
朝食を済ませて船を降り、市内へ向かう巡回バスに乗った。
酒田は昔、北前船で大いに栄えた港町だという。
実際に歩いてみると、その頃の面影を残す建物が今もあちこちに残っていた。
古い料亭やお茶屋だった建物。
昔の賑わいを感じさせる町並み。
ところが今はとても静かだ。
もちろん人がいないわけではない。
ただ、東京で暮らしていると、人の少なさに少し驚く。
けれど不思議なことに、それが嫌ではなかった。
むしろ歩いていて心地良かった。
古い建物を見ていると、つい昔の様子を想像してしまう。
大きな座敷には大勢の客がいて、酒を酌み交わしていたのだろう。
芸者さんたちが行き来し、笑い声が響いていたのかもしれない。
今は静かだ。
でも建物は、その頃の賑わいをどこか覚えているように見えた。
栄枯盛衰。
少し寂しい気持ちになる。
けれど同時に懐かしさも感じる。
そんな場所が俺は昔から好きだ。
日和山公園では松尾芭蕉の銅像や句碑も見た。
そこには、
「荒海や 佐渡によこたふ 天の川」
という有名な句が刻まれていた。
奥の細道を旅した芭蕉も、この土地を歩いたのだろう。
公園から眺める景色も良かった。
そして何より印象的だったのが鳥海山だった。
町を歩いていると、普通の住宅街の向こうに雪をかぶった大きな山が見える。
東京ではなかなか見られない景色だ。
山が遠くに見えるのではなく、町のすぐ後ろにそびえているように感じる。
思わず足を止めて見入ってしまった。
また、昔の料亭を利用した施設では見事な飾り雛も展示されていた。
部屋いっぱいに吊るされた色鮮やかな飾りは圧巻だった。
写真では見たことがあったが、実際に目の前で見ると迫力が違う。
しばらく見入ってしまった。
昼は酒田ラーメンを食べた。
ワンタンメンが有名だというので、一番人気らしい店へ向かった。
店の前には行列ができていて、30分ほど並んだ。
ようやく食べることができたのだが、正直な感想を言うと、普通だった。
もちろんまずいわけではない。
普通に美味しい。
ただ、30分並んでまで食べるほどかと言われると、俺にはよくわからなかった。
むしろ近所の街中華のラーメンの方が好みに合っている気がした。
まあ、それも旅の思い出だ。
坂田は静かな町だ。そこに突然3000人以上の人間が押し寄せのだ。そして人気店だとガイドブックで紹介されたラーメン屋さんに群がったのだ。そりゃあスープだって味がうすくなるよな。
夕方になり船へ戻る。
出港の時間になると、岸壁では地元の人たちが太鼓を演奏しながら見送ってくれた。
坂田の人たちは暖かく迎えてくれて、暖かく見送ってくれた。
手を振る人たちの姿が少しずつ小さくなっていく。
数時間しか滞在していない町なのに、なぜか名残惜しかった。
今回の旅ではたくさんの町を訪れた。
それでも、一番心に残ったのは酒田だった。
派手な観光地ではない。
けれど、雪をいただいた鳥海山、北前船の面影を残す町並み、そして静かな空気。
またいつか訪れてみたい。
そんなふうに思わせてくれる町だった。


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